イスラエルの鼓動 1999年4月
中東の外観と内部事情(記述;ウィリアム・E・カリー牧師)
 
イスラエルを覆う不確実性
 
期待はずれのことばかり
 
 公約違反と・不誠実な発言は中東とイスラエルの不確実性を加速させている。1998年10月、クリントン米大統領介入によりワシントンで調印されたワイ合意も、イスラエル民衆の支持を多く得られず、ほとんどの住民はヤセル・アラファトのパレスチナ統率力も合意文書の履行をも疑っている。土地譲渡と引換えに得られるべき住民の安全保障は、未だに訪れていない。
 アラファトはパレスチナ人たちに約束した、政治的な希望も成就させていない。彼らはエルサレムを首都とすることも、1967年の戦争で失ったウエストバンク(ヨルダン川西岸地区)全域の返還も見ていないのだ。オスロ合意で予告されたはずの経済的ユートピアは、イスラエル、パレスチナ双方に未だに訪れていない。現実はパレスチナ政府が容認している、継続的テロと暴動である。これでは、イスラエルが多くの血と汗で勝ち取った領地を譲渡するに足る代償というには、あまりにも隔たりがありすぎる。
 
冷たい平和、揺らぐ平和
 
 双方の民族が抱える多くの公約違反の中で、今日の中東の不確実性を示す突出した特徴は何か? イスラエル国家の存続に反対する27のイスラム国家の中で、西側の外交努力により、わずか2国だけがイスラエルと和平関係にある。エジプトは、イスラム狂信派によって暗殺された前大統領、アンワール・サダトの時代に中東和平条約を締結した。ヨルダンはフセイン前国王によってイスラエルと和平条約を結んだ。
 エジプトとの関係は、貿易や観光客の相互訪問などの効果があまり芳しくないので、現在冷えてきている。エジプト人にとって、イスラエル観光の許可を自国政府から取るのは至難の業である。またエジプト国内で発生している、イスラム狂信派のテロ行為は、イスラエル人観光客の興味を失墜させるものだ。
 ヨルダンとの関係は、現在順調である。イスラエル人によるヨルダン観光は、歓迎され増加している。イスラエル・シェケル(通貨)は歓迎され、ペトラなどの長年の夢だったところは今、観光の目玉になっている。貿易は観光と同様に順調、水源の交渉も、、、しかし、2月7日にガンで死去したフセイン国王後も、この関係が継続するか世界は疑問視している。
 フセイン国王は死の数日前に,米国のマヨ・クリニックから急きょ帰国し、王位継承者であった実弟のハッサン皇太子を解任し、代わりに息子のアブドラを王位継承者に任命した。36歳のアブドラ2世は、ヨルダン人にもイスラエル人にもあまり知られていない。彼は政策上重要課題であるイスラエルとの関係において、王宮内の全面的支持を得ていない。また前皇太子であった叔父のハッサンが、今後どう行動するか不気味である。
 新国王アブドラ2世は、イスラエル政府幹部と会談し、父親時代の和平を継続すると約束した。しかしこの若い・未経験の新国王が、周辺イスラム諸国からの圧力に屈して和平を破棄する危険性も十分にある。
 
アラファトの不穏な行動
 
 イスラエル、パレスチナ関係の不確実要素は今後も拡大する。テロ横行の脅威とユダヤ人入植地拡大論議が続いているところへ、ヤセル・アラファトはオスロ合意から5年目にあたる1999年5月4日に、「パレスチナ国家独立宣言を行う」と言っているのである。イスラエル政府は、「アラファトの宣言は、オスロ合意を無視するものだ」と発表した。アリエル・シャロン外相は「パレスチナ支配下にしないように、ウエストバンク全域の領土併合をする」と警告している。
 イスラエル政府は、アラファトの強行が無いことを望んでいる。理由はもしパレスチナが対イスラエル強硬姿勢を見せれば、ネタンヤフの選挙運動を後押しすることになるからだ。もちろんパレスチナ側も、ネタンヤフの再選を望んではいない。しかしアラファトが静観すれば、和平交渉決裂で不満が鬱積している同胞の蜂起を阻止できないだろう。西側の指導者たちは、アラファトが温和に前言を取り消し、クリントン大統領の提案した、「2000年5月まで待つ」という妥協案を受け入れることを望んでいる。中東では、外交努力が失敗することが多々ある。パレスチナの強硬派がユダヤ国家との妥協に応じるのは、まず不可能なのだ。
 
権力抗争、権力仲買人
 
 イスラエル民衆の抱く、他の不安材料は5月17日に行われるクネセト(国会)と首相選挙の行方である。大政党は、国政運営のため同調可能な少数政党の取り込みに必死である。各政党は主導権を取ろうとして躍起になっているが、乱立は共倒れの恐れを招くだけだ。今この原稿を執筆中に31政党が名乗りをあげているが、3月30日の締め切りまでに更に21の政党が出馬すると報じられている。(訳者・注 最終的に120議席を争うのに、約60の政党が出馬した。)
 首相選挙にもまた多くの人が立候補している。現職のベニヤミン・ネタンヤフの優位は変わらないが、激戦だ。他の有力候補は、前国会議長ダン・チホン、前テルアビブ市長ロン・フルダイ、三大政党のリクード党とイスラエル統一党(前労働党)と新中道政党による連立内閣の実現を目指している者たちだ。彼らはこの三党の路線はとても近いので、和平交渉も順調に進むという考えなのだ。
 首相候補たちの公約は泉のごとく涌き出ている。レバノン紛争の終結,対パレスチナ和平交渉,対シリア和平交渉の開始などなど、、、レバノンはシリアの支配下にあり、アサド大統領の承認なしにはイスラエルと和平条約を結べない。執念深いイスラエルの宿敵アサドは、交渉の前提条件としてゴラン高原の返還を要求している。イスラエル世論は、南部レバノンから一方的撤退をしてでもレバノン問題の早期終結を求めている。労働党党首で首相候補のエフド・バラク前将軍は、選挙公約で「一年以内にレバノンから撤兵してシリアとの和平交渉を始める」と言っている。バラクの公約は支持票の上乗せにつながるだろうが、ゴラン高原を返還して公約を実現する可能性は極めて低い。それはゴラン地区に住むかなり多数の住民が、絶対に受容できないことだからだ。
 いかにしても次期首相は、クネセトで必ず躍進する可能性のある超正統派のシャス党との連立政権を組むことになる。リクードも労働党も、ラビが投票命令を出す宗教政党に票を奪われるのは必至だ。非宗教的イスラエル人の多数は棄権するため、固定票のある宗教政党の動向で、連立政府も動きが流動的になる。
 
メシアによる確実性
 
 イスラエルの大多数は、混沌とした中東問題を解決して平和をもたらすのは、メシアの出現以外にないと信じている。しかし彼らの欲するメシアは、内政・外交の上手な国の指導者だ。そして未だにその候補者は姿を現わさない。我々は、イェシュアがメシアであり、イスラエルは国家として彼を拒絶したことを知っている。中東・イスラエルの平和は、彼の再臨まで実現しない。しかしイスラエルの中にも個人的に、各自の人生に平和を与えられた人々がいる。イスラエル国内で増加しているメシアニック・ジューのことである。この不確実な中東にも、真の確実さは存在する。それは主が治めておられるところだけである。
 
反-信教の自由法案の現状
 
 イスラエル在住の信者たちは、信教の自由を剥奪される法案の圧力を感じている。超正統派シャス党は、“いかなる者の宗教の変更も違法とする”ピンハシ法案を支持している。この法案提出以降、メシアニック・ジューに対する迫害が増加している。
 1999年3月6日、ガリラヤ湖近郊のモシャバ・ミグダルで、8人の子供のあるシェベンバーグ夫妻の家に3本の火炎瓶が投げ込まれ、放火された。警察はメシアニック・ジューの一員だから攻撃されたものと見ている。
 メシアニック・アクション・コミティ(M.A.C.)は、合法的手段でこの法案阻止を目指している。2月14日の報告では、シャス党のラビ、ラファエル・ピンハシ議員は他の二人の宗教政党の議員とともに、デンマークの議院法学者の訪問を受けた。このデンマーク人の学者はフレミング・コフォドスベンセン国会議員で、「イスラエルにおいてこのような反民主的法律を制定することは重大問題だ」と指摘した。彼はまた、「非宗教政党がこの法案に断固たる反対姿勢をとらなければ、この法案は成立してしまう恐れがある」と言っている。この会見の中でピンハシ議員は、「シャス党はイスラエル国家をラビ律法で取り締まることが目標だ」と明言し,メシアニック・ジューなどがユダヤ人を改宗させるために伝道するから、あらゆる手段を講じて対抗し拒絶するのだと説明している。そしてシャス党が5月の選挙後どの政党と連立するにしても、この法案を支持するということが政策合意条件のひとつになると宣言した。現有10議席のシャス党は、時期選挙で15議席の獲得を目指していて、連立政権の中で発言力を増大したい。
 フレミング・コフォドスベンセンのピンハシ法案に対する反対声明は、リクード党や労働党が連立交渉時に、正統派の圧力に屈しないようにという警告効果がある。シャス党が強力な発言力を持っていることは、最近の迫害の激化を見ればわかる。新約聖書を信じるグループに対して繰り返し起こっている暴動で、警察や当局が凶行者を全然取り締まらないという社会風潮は実に問題である。これはシャス党と関係のあるネタンヤフ陣営にとって、再選に対するマイナス材料だ。
 この法案と迫害の激化は、イスラエルを覆っている不確実性の表れである。あるイスラエル人信者が私にこう言っていた。「もしピンハシ法案が成立すれば、それは神がイスラエルに与えた宿題だ。」また他の信者は「我々は戦う用意がある。しかし我々にとってこの緊迫感は、今もっと熱心に伝道しようとする効果をあげている。」主は御意志を達成される。主の御手にお委ねしよう。法案成立が御心ならば我々が何をしても阻止できない。そのために金と時間を無駄遣いするよりも、伝道と信者の育成にエネルギーを用いたほうが良い。エルサレムの初代教会は同様の戦いを経験したが、伝道に励んだ。メシアの救いのメッセージをユダヤ人のみならず、全世界に宣べ伝えたのである。
 
(訳者・注) ピンハシ法案廃案! 戦闘は終結、交戦状態は継続
 4月6日のメシアニック・アクション・コミティの報告によると、ラファエル・ピンハシ議員は5月17日の議会選挙のシャス党比例候補者名簿に載らなかったため、議員資格を失うことになり、前回の反宣教法案の時と同様に、この法案も廃案になった。イスラエルのメシアニック・ジューもクリスチャンも、また世界中の信者たちも過去2年間祈り続けたその答えをいただいた。しかし過去の例があるように、メシアニック・ジューを憎んでいる者たちが大勢いるので、同様の法案が再提出される可能性は十分にある。宗教政党の議員たちで、メシアニック・ジューやクリスチャンたちがイスラエル国内での宣教活動を止めるまで、法規制などを継続すると明言している者があるからだ。また法案とは無関係にでも、暴行や迫害が増大することも注意したほうがよい。
 イスラエル在住の信者たちのために、祈り・執り成しを継続しよう。
 
              (AMFインターナショナル発行 邦訳;石黒イサク)

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